「本人は行くと言っているのに、車に乗る段になると急に不安がって嫌がる」「知らない人が運転する車だと分かると、途中で降りたいと言い出すことがある」。認知症のある家族の通院で介護タクシーを使おうとすると、こうした場面に直面することがあります。乗り降りの介助以前に、「この事業所は、うちの家族のような反応にちゃんと対応してくれるのだろうか」という不安が先に立つ方も少なくありません。

先に、要点をまとめます。

  • 認知症のある方への声かけ・見守りは、乗降介助の一環として対応してくれる事業所がある一方、対応力はスタッフの経験によって差があります。事前確認が欠かせません
  • 病院内の介助は原則として病院スタッフの役目ですが、見守りが必要な場合に運転手や介助スタッフの同行が例外的に認められることがあります。これも事業所・病院側との事前調整が前提です
  • 認知症や精神疾患があり、家族が同乗しないと利用者の不安が強くなる場合、自治体によっては介護保険を使う際も家族の同乗を認める基準を設けている例があります。基準の有無は自治体・ケアマネジャーへの確認が必要です

ここまでを読んで「結局、何をどこに確認すればいいのか」がまだぼんやりしている方もいると思います。この記事の後半では、実際に事業所へ問い合わせるときに、何をどの順番で伝えればよいかを具体的な文面のイメージまで含めて整理します。まずは、認知症のある方の通院で介護タクシーがどこまで対応してくれるのか、範囲から見ていきましょう。

認知症があると、介護タクシーの利用を断られることはある?

認知症があるという理由だけで一律に利用を断られることは基本的にありません。ただし、事業所ごとに対応できる見守り・声かけの範囲や体制には差があります。

介護タクシーは、車椅子や杖を使う方の身体的な介助を想定した制度・サービスとして語られることが多いですが、認知症のある方の移動を想定した対応も、多くの事業所が行っています。車に乗ること自体への不安、知らない人への警戒、行き先が分からないことへの混乱といった反応は珍しいものではなく、こうした場面での声かけや見守りも、乗降介助の延長として引き受けている事業所は少なくありません。

ただし、「対応できる」といっても、その中身には幅があります。ゆっくり声をかけながら根気強く乗車を促してくれるスタッフもいれば、乗降そのものの介助は丁寧でも、不安な様子への声かけまでは想定していない事業所もあります。これは事業所の善し悪しというより、スタッフの経験や研修内容、体制(ドライバー一人か、介助専任のスタッフが同乗するか)によって変わってくる部分です。認知症介護の実践的な研修を受けたスタッフが在籍しているかどうかも、対応力を見極める一つの手がかりになります。

依頼する側としては、「認知症があるので断られるかもしれない」と身構えて連絡をためらうより、「認知症があり、こういう場面で不安が強くなりやすい」という具体的な状況を先に伝えて、対応可能かどうかを確認するという動き方のほうが、結果的にスムーズです。次の見出しから、伝えるとよい内容を具体的に見ていきます。

事業所にはどんな情報を伝えておくといい?

普段の生活で本人が落ち着く声かけの言葉、不安が強くなるきっかけ、車や外出そのものへの慣れの程度を、具体的な場面とセットで伝えておくと対応してもらいやすくなります。

認知症のある方への対応は、一般論として「優しく話しかける」だけでは十分でないことが多く、本人ごとの個別性が大きい部分です。普段介護をしている家族やケアマネジャーが把握している「この人はこうすると落ち着く」という情報こそが、初めて会うドライバーや介助スタッフにとって一番役立つ手がかりになります。

具体的に伝えておきたい情報を整理すると、次のようになります。

  • 本人が落ち着く声かけの言葉やタイミング(名前を呼んでから話しかける、行き先を先に伝えると安心する、など)
  • 不安や混乱が強くなりやすい場面(知らない人が近づく、急に体に触れられる、車内が狭く感じる、など)
  • 車や外出そのものへの慣れの程度(普段から家族の車には抵抗なく乗れるか、外出自体を嫌がることが多いか)
  • 見当識の状態(今日の予定や行き先を理解できているか、説明を都度必要とするか)
  • 過去に外出を嫌がった際、何をしたら落ち着いたか(具体的な対応の成功例)

これらを箇条書きにして、電話やメールで事前に伝えるのが確実です。「認知症があります」という一言だけでは、事業所側も何を準備すればよいか判断しづらいため、上記のような具体的な場面とセットで伝えることが、当日の対応力を引き出す近道になります。初めて事業所に電話するときに伝える項目と合わせて準備しておくと、確認の抜け漏れを減らせます。

事業所に伝えておきたい5つの情報(落ち着く声かけ、不安が強まる場面、車・外出への慣れ、見当識の状態、過去の成功例)を整理したカード図

病院に着いてからの見守りも頼める?

病院内の介助は原則として病院スタッフの役目ですが、見守りが必要な状態であれば、運転手や介助スタッフの同行が例外的に認められることがあります。事前に病院側と事業所側の双方に確認が必要です。

介護タクシーの介助範囲は、基本的に自宅から車、車から病院の入口までが中心で、病院に入ってからの受付・診察室までの移動や院内での待ち時間の付き添いは、病院スタッフが担うのが原則的な役割分担です。これは、病院内には医療スタッフによる対応体制が別途あることを前提にした線引きです。

ただし、認知症のある方の場合、院内で一人にすると迷子になったり、不安から大声を出してしまったり、診察の順番を理解できずに混乱したりすることがあります。こうした事情がある場合、病院側の判断で、運転手や介助スタッフが院内の受付まで、あるいは診察室の前まで同行することを例外的に認めているケースがあります。これは病院ごとの運用方針によって差があるため、「うちの病院ではどこまで付き添いが可能か」を、通院先の病院にも確認しておくと当日の混乱を避けられます。病院受付までの介助を頼むときの確認ポイントも参考にしてください。

事業所側にも、「病院に着いてから診察室に入るまで、本人が不安がる可能性がある」ということを事前に伝えておくと、その日の人員体制(介助スタッフをもう一人手配できるかなど)を調整してもらえることがあります。院内介助が必要になりそうな場合は、当日いきなり頼むのではなく、予約の時点で相談しておくのが確実です。

家族が同乗しないと本人が不安がる場合はどうすればいい?

認知症や精神疾患があり、家族が同乗しないと利用者の精神的な安定が保てないと判断される場合、自治体によっては介護保険を使う際も家族の同乗を認める基準を設けている例があります。

介護保険の通院等乗降介助を使う場合、家族の同乗は原則として想定されていません。しかし、認知症や精神疾患のために家族がいないと不安定になり、輸送の安全確保が難しいと判断される利用者については、自治体ごとに定めた基準に基づいて、例外的に家族の同乗を認めている例があります。この基準の有無や内容は自治体によって差があるため、一律に「認められる」「認められない」と判断できません。

家族の同乗を希望する場合は、まずケアマネジャーに、本人の普段の様子(一人で車に乗せると不安が強くなる、パニックに近い状態になることがある、など)を具体的に伝えて相談してください。ケアマネジャーは、お住まいの自治体でこうした例外基準が定められているかどうかを確認できる立場にあります。基準に該当する場合は、ケアプランへの記載や、事業所への申し送りが必要になることもあります。

自費で介護タクシー・福祉タクシーを利用する場合は、介護保険の制約を受けないため、家族の同乗について事業所ごとの方針を確認するだけで済みます。多くの事業所は、認知症のある方の安心のために家族の同乗を歓迎していますが、車両の座席数によっては同乗できる人数に制限がある場合もあるため、予約時に人数も併せて伝えておくとよいでしょう。介護保険を使うか自費にするかという判断そのものについては、介護タクシーはケアマネジャーへの相談が必須?でも整理しています。

対応が難しいと言われたら、どうすればいい?

一つの事業所で対応が難しいと言われても、認知症のある方の対応経験が豊富な事業所は他にもあります。ケアマネジャーに相談し、対応実績のある事業所を紹介してもらうという方法があります。

すべての事業所が、認知症のある方への対応に慣れているわけではありません。スタッフの人数体制や研修の状況によっては、「今回はご希望に沿った対応が難しい」と断られることもあります。ここで「介護タクシー自体が使えない」と結論づけてしまう前に、他の選択肢を確認しておくことをおすすめします。

まず、ケアマネジャーは地域の介護タクシー事業所の対応実績についてある程度把握していることが多く、「認知症の利用者の対応に慣れている事業所」を紹介してもらえる場合があります。次に、事業所はどう比べる?家族が見るべき6つの軸で触れているように、事業所によって得意分野が異なるため、複数の事業所に同じ内容を伝えて対応可否を比較してみるのも有効です。

それでも対応できる事業所が見つからない、あるいは医療的な管理も同時に必要な状態である場合は、看護師が同乗する民間救急・医療搬送サービスという選択肢もあります。こちらは介護タクシーよりも医療的な体制が手厚い分、料金体系も異なります。民間救急と介護タクシーの違いで、どちらを検討すべきかの目安を整理しているので、あわせて確認してみてください。

冒頭で触れた「知らない人が運転する車だと分かると降りたいと言い出す」といった反応についても、事前に伝えておけば、乗車前に本人と顔を合わせる時間を少し長めに取ってもらう、行き先を繰り返し伝えてもらうといった工夫で対応してくれる事業所があります。一度で「合わない」と判断せず、伝え方や事業所を変えて試してみる余地があることも、知っておいて損はありません。

この記事で持ち帰れること

  • 認知症があることを理由に一律で利用を断られることは基本的になく、対応の幅は事業所・スタッフの経験によって差があると判断できるようになります
  • 本人が落ち着く声かけや不安が強まる場面を具体的な場面とセットで事前に伝えることが、当日の対応力を引き出す一番の近道になります
  • 院内の見守りが必要な場合や家族の同乗が必要な場合は、病院・事業所・自治体それぞれへの個別確認が前提になることを持ち帰れます

まずは、本人が不安がる場面を3つ書き出してみましょう

次に事業所へ相談する前に、本人が車や外出のどんな場面で不安がりやすいか、思い当たる場面を3つほど書き出してみてください。それを伝えるだけで、事業所側も対応できるかどうかを具体的に判断しやすくなります。

なお、当サイト「介護たくしーさーち」は、都道府県やサービス区分、対応可能な介助内容から事業所を検索・比較していただくサービスで、特定の利用者への個別の配車代行や運送の取次、予約の代行は行っていません。事業所選びで迷う方は事業所はどう比べる?家族が見るべき6つの軸、初めて連絡する際の伝え方は初めて電話するとき、何を伝える?もあわせてご覧ください。気になる事業所が見つかったら、検索結果の詳細ページから直接お問い合わせください。