「今週末だけ実家に外泊させてもらえることになりました」——入院が長引くと、主治医からこうした一時外泊の許可が出ることがあります。うれしい知らせである一方、家族の頭を悩ませるのが移動手段です。「外泊も入院中の出来事だから、通院と同じように介護保険が使えるのでは」と考える方が多いのですが、実はそう単純ではありません。
先に、要点をまとめます。
- 入院中の外泊・一時帰宅にともなう移動は、往復とも自費が原則です。介護保険の通院等乗降介助は「居宅(自宅)が始点または終点になる移動」を対象にした制度であり、外泊という目的そのものは対象に含まれていません
- 令和3年度の介護報酬改定では、居宅が始点または終点であれば、複数の目的地(病院間の移送など)をまたぐ場合も算定できるようルールが広がりましたが、これはあくまで「居宅を起終点とする移動」が前提です。入院を継続したまま病院と自宅を一時的に往復する外泊は、この起終点の条件に当てはまりません
- 費用は運賃・介助料・機器レンタル料の3つに分けて考える必要があり、往復2回分の見積もりを早めに取っておくと当日慌てません
まずは、なぜ外泊が「通院」の枠組みに入らないのか、制度の考え方から順番に整理していきます。
入院中の外泊に介護保険は使える?
原則として使えません。通院等乗降介助は「居宅(自宅)が移動の始点または終点になっていること」を前提にした制度であり、入院を継続したまま病院と自宅を一時的に往復する外泊は、この前提に当てはまらないためです。
介護保険の通院等乗降介助(訪問介護の一形態)は、居宅で生活する要介護者が通院等のために移動する場面を想定してつくられた制度です。令和3年度の介護報酬改定では、居宅が始点または終点になっていれば、複数の目的地(病院からさらに別の病院へ、といった目的地間の移送)をまたぐ場合も算定できるようルールが広がりました。ただし、この改定はあくまで「居宅を起点または終点とする移動」が前提になっている点は変わっていません。
外泊は、この前提と噛み合いません。入院という状態はいったんも途切れず、本人は病院に籍を置いたまま、数時間から数日だけ一時的に自宅へ戻る扱いになります。移動の起点も終点も「入院中の病院」であり、自宅は途中で立ち寄る場所という位置づけです。往路(病院→自宅)も復路(自宅→病院)も、通院等乗降介助が前提とする「居宅を起終点とする移動」には当てはまらないため、原則として全額自費になります。
「令和3年度の改定で対象が広がったのだから、外泊も含まれるのでは」と考えてしまいがちですが、改定で広がったのはあくまで居宅を起終点とする移動の途中に複数の目的地が挟まるケースへの対応です。外泊のように、入院という状態そのものが継続したまま自宅へ一時的に戻るケースは、この改定が想定する範囲の外にあります。
なお、これは介護タクシー事業所の判断ではなく、介護保険制度そのものの対象範囲の設計によるものです。事業所に相談しても、制度の枠組みを超えて保険を適用することはできません。
退院時の移動とは何が違うの?
退院は「病院を出て居宅に戻る」という移動で、居宅が終点になっているため、ケアプランへの位置づけや自治体の判断を前提に通院等乗降介助の対象として検討され得ます。一方、外泊は入院という状態を継続したままの一時的な往復であり、居宅を起終点とする移動には当てはまりません。
似ているようで、この2つは制度上まったく別の扱いです。
- 退院の移動(病院→自宅、片道):本人がこれから居宅生活に戻る移動で、終点が「居宅」になっています。ケアプランへの位置づけや自治体の判断を前提に、通院等乗降介助の対象として検討される余地があります
- 外泊の移動(病院→自宅→病院、往復):本人は引き続き入院という医療機関の管理下にあり、一時的に居宅へ戻るだけで、入院という状態そのものは継続しています。移動の起点も終点も「病院(入院中の状態)」であるため、居宅を起終点とする移動には当てはまりません
退院時の移動の詳しい進め方については、退院時の介護タクシー手配はいつから?で当日の段取りを具体的に整理しています。転院という別の場面での保険適用の考え方は、転院に介護タクシーは使える?で扱っています。外泊はこの2つのどちらとも異なる「入院継続中の一時的な往復」という位置づけである点が、この記事のポイントです。
外泊の費用はどう考えればいい?
往路・復路の両方について、運賃・介助料・機器レンタル料の3つをそれぞれ自費として見込んでおく必要があります。片道分の見積もりだけで安心しないことが大切です。
外泊は往復での利用になるため、費用も往復2回分を考える必要があります。
- 運賃:移動距離や時間に応じて決まる基本料金です。往路と復路で同じ距離を移動するため、単純計算では片道分の2倍が目安になりますが、待機時間の扱いなど事業所ごとに条件が異なるため、往復セットでの見積もりを依頼するのが確実です
- 介助料:病棟から車まで、車から自宅の玄関までといった、乗降や移乗にかかる介助の費用です。外泊では往路・復路それぞれで介助が発生するため、通常の通院よりも介助の回数が増えることを踏まえておく必要があります
- 機器レンタル料:ストレッチャーや車椅子を事業所から借りる場合の費用です。入院中に体力が落ちて、入院前より手厚い車両が必要になっているケースもあります
これらは性質の異なる費用なので、見積もりを取るときは「外泊往復の運賃・介助料・機器レンタル料を、それぞれ教えてください」と分けて聞くのが確実です。3つの費用の全体像については、介護タクシーの料金はなぜ分かりにくい?運賃・介助料・レンタル料の内訳でさらに詳しく整理しています。
また、外泊の予定は「主治医の許可が出てから当日まで」の期間が短いことも珍しくありません。日程が決まり次第、早めに複数の事業所へ問い合わせておくと、希望する日時の車両を確保しやすくなります。
外泊のとき、病院側とはどんな調整が必要?
外泊の許可自体は主治医が判断するものであり、介護タクシーの手配は家族が別途進める必要があります。病棟の看護師に、外泊当日の移動手段を事前に伝えておくとスムーズです。
外泊は「主治医が外泊を許可する」ことと「その移動手段を確保する」ことが、別々の手続きになっている点を押さえておくと準備がしやすくなります。主治医から外泊の許可が出た段階で、病棟の看護師にも移動手段(介護タクシーを利用する予定であること)を伝えておくと、車椅子への移乗のタイミングや、当日持ち帰る荷物の準備について、病棟側と足並みをそろえやすくなります。
本人の状態によっては、外泊中に医療的なケア(吸引や点滴の管理など)が必要になる場合もあります。こうした医療的ケアへの対応可否は事業所によって差があるため、外泊を検討し始めた早い段階で、看護師やケアマネジャーに「外泊中に必要なケアの内容」を確認し、それを踏まえて対応可能な事業所を探すという順番で進めると、当日になって慌てずに済みます。ケアマネジャーへの相談が必要になる場面の考え方は、介護タクシーはケアマネジャーへの相談が必須?でも扱っていますが、外泊の移動費用自体は前述の通り居宅を起終点とする移動に当てはまらないため、ケアプランへの位置づけは不要です。
複数の事業所を比べるときの共通の視点は、介護タクシーの事業所はどう比べる?で詳しく整理しています。外泊のように短い準備期間で決める場合も、確認すべき軸は基本的に同じです。
往路と復路、同じ事業所にまとめて頼むべき?
必須ではありませんが、同じ事業所にまとめて依頼したほうが、車両の特徴や介助の要領を毎回説明し直す手間を省けます。ただし外泊先が長距離になる場合は、復路の予約が取りづらくなることもあるため、往復セットでの予約可否を先に確認しておくと安心です。
外泊は日帰りのこともあれば、数日間にわたることもあります。日帰りであれば同じ事業所に「行きと帰りをまとめて」依頼することで、車椅子の折りたたみ方や本人の座位の状態など、一度伝えた情報を再度説明する手間が省けます。事業所によっては、往復セットで予約すると復路の車両を優先的に確保してくれる場合もあるため、電話やフォームで問い合わせる際に「往復での利用を検討している」と伝えておくとよいでしょう。
一方、数日間の外泊で復路の日時がまだ確定していない場合は、往路の予約時に「復路は日程が決まり次第、改めて連絡する」旨を伝え、事業所側の対応可否(当日や前日の追加予約に応じてもらえるか)を確認しておくことをお勧めします。復路の予約を後回しにしたまま外泊当日を迎えると、いざ病院に戻る段になって希望の時間帯に車両が確保できない、という事態につながりかねません。
よくある失敗として、往路の手配だけに気を取られ、復路の予約を外泊当日まで忘れてしまうケースがあります。外泊の許可が出た時点で、往路と復路の両方をカレンダーに記入し、遅くとも外泊の前日までには復路の予約状況を確認しておくと、当日慌てずに済みます。
事前に確認しておくと安心なことは?
「外泊の日時」「本人の状態(座位可否・医療機器の有無)」「往路・復路それぞれの行き先住所」の3点を、病棟の看護師と事業所の両方に同じ内容で伝えておくと、当日の行き違いを防げます。
外泊の準備では、病院側(主治医・看護師)と介護タクシー事業所の両方に情報を伝える必要があるため、どちらか一方にしか伝えていない内容があると、当日になって「聞いていない」という行き違いが起きがちです。以下の3点は、両方に共通して伝えておくとよい情報です。
- 外泊の日時:外泊開始(病院を出る時刻)と、復路の出発予定時刻(自宅を出る時刻)の両方
- 本人の状態:座位が可能か、車椅子かストレッチャーか、点滴や酸素吸入などの医療機器を装着したままかどうか
- 往路・復路の行き先住所:外泊先の住所(自宅や実家など)と、戻る病院名・病棟
これらを一枚のメモにまとめて、看護師と事業所の双方に同じ内容を伝えるようにすると、「病院では聞いていた話が事業所に伝わっていなかった」というような伝達漏れを防げます。特に医療機器を装着したまま外泊する場合は、対応可能な事業所が限られることがあるため、この点は早い段階で確認しておくことをお勧めします。
この記事のまとめ
この記事で押さえておきたいことは、次の3点です。
- 入院中の外泊・一時帰宅は、居宅を起終点とする移動に当てはまらず、往復とも原則として自費になる
- 退院(病院→自宅の片道)とは制度上の扱いが異なり、混同しないことが大切
- 往復分の運賃・介助料・機器レンタル料を分けて見積もり、病棟側にも移動手段を早めに伝えておく
外泊は入院生活の中でも、本人にとって気持ちが和らぐ大切な時間です。移動手段の心づもりさえ早めにしておけば、当日は本人と過ごす時間に集中できます。まずは主治医から外泊の許可が出た時点で、病棟の看護師に一声かけてみることから始めてみてください。
よくある質問
Q. 外泊の行き先が実家ではなく、家族の家でも自費になりますか? A. はい。行き先が本人の住民票上の自宅であるかどうかにかかわらず、入院を継続したままの往復は「居宅を起終点とする移動」に当てはまらないため、原則として自費になります。
Q. 外泊の移動費用は医療費控除の対象になりますか? A. 通院に関する交通費として医療費控除の対象になり得るのは、あくまで治療を目的とした通院等の移動です。外泊は治療目的の通院とは異なるため、対象になるかどうかはケースにより判断が分かれます。詳しくは税務署や税理士にご確認ください。
Q. 外泊中に体調が急変した場合はどうすればいいですか? A. 介護タクシーは緊急時の医療対応を前提としたサービスではありません。外泊前に、体調急変時の連絡先(入院先の病院・かかりつけ医)を家族間で共有し、必要であれば入院先の病院にも緊急時の対応方法を確認しておくと安心です。
Q. このサイトから外泊の移動を予約できますか? A. いいえ、当サイトでは配車代行や予約代行は行っていません。掲載事業者を検索・比較のうえ、直接事業所にお問い合わせください。

